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ピアノ音楽は、カサドッシュ、グルダ、クリーン、エッシェンバッハも良いですが、力強さ、繊細を兼ね備えた演奏はなかなか聞けません。特にモーツァルトの演奏に欠かせないフレージング、アゴーギクは抜群、半世紀前の演奏とは思えないほど素晴らしい演奏です。
楽しむだけであれば、気高くも哀しいリパッティの名演と比べると魅力には乏しいといわざるを得ない。モーツァルトのピアノ作品を鑑賞するとなると、ギーゼキングから押さえるのが常套だろう。ノイエ・ザッハリヒカイトの旗手ギーゼキングの弾くモーツァルトは、余計な装飾や表情付けを排した古典的な簡素さが特徴だ。モーツァルトのピアノ音楽は手練手管を弄したタッチよりも、均一で透明感のあるギーゼキングの演奏の方が栄える。作品の美しさが粒の揃ったタッチから伝わる反面、型に収まった演奏様式で聴き手に強い印象を与えることは少ない。そういう減点面こそが、ノイエ・ザッハリヒカイトの泰斗であるギーゼキングらしいが、勿体振つた表情で明暗を付けるピアニストよりも転調の効果が絶妙で心憎いばかりだ。