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マインツ室内管弦楽団は年配のクラシックファンには懐かしい名前だろう、1955年、ギュンター・ケールによって設立されたこの室内オーケストラはケール時代に録音も多数残した名オーケストラだった。ずば抜けて技量豊かな団体ではないが、柔らかく穏やかな音楽作りが、マインツ室内管弦楽団の持ち味だ。1989年にケールが亡くなった後、フォルカー・ミュラーが音楽監督を務めている。ドイツ的な温かなモーツァルトが、じんわりと響いてくる。
〈音楽療法〉によく利用される、このケールのモーツァルト・シリーズは、我が国の音楽評論家にはまったく無視されている。知恵の森文庫（光文社・刊）所収の『スジガネ入りのリスナーが選ぶ クラシック名盤 この１枚』で、〈しかしここでは、ある時代の模範ともいうべき伝統的なドイツの室内オーケストラの演奏をしる意味で〉、として倉響氏が〈むやみに響きを広げることなく、若きモーツァルトのオーケストラの世界をきびきびと描き出している。素朴といえば素朴、しかし田舎くささはない。ケールがときどき用いるレガート奏法などは、いま聴けばかえってギョッとするほど新鮮だ。こういう小味のよさを活かした室内アンサンブルは、現在はどうなってしまったのか。〉と紹介していた。
モーツァルトの交響曲の初期の作品は、例えば管弦楽のディヴェルティメントやセレナードに比べて、今ひとつ魅力に乏しいものが多い。当時はまだ「交響曲」というジャンルは未成熟であり、序曲、シンフォニアなどと呼ばれるスタイルの、なんとも中途半端な楽曲形式だったこともあるのだろう。しかしやがてモーツァルトは、他のどのジャンルでもそうだったように、この「交響曲」を次第にわが物とし、真のマスターピースを次々と生み出していくことになる。その発展過程を知るうえでも、初期の彼の交響曲は、大変興味深いものだ。