モーツァルトの作品の中で、特に最後の3大交響曲は指揮者にとっては避けて通ることのできない、その指揮者の音楽の本質的なところを明らかにし得るという点に於いても極めて重要なレパートリーであろう。フルトヴェングラーが第二次世界大戦後に至るまでのベルリン・フィルの定期演奏会でプログラムに取り上げたモーツァルトの交響曲は、「プラハ」以降の4曲に限られているが、その中で「ジュピター」は、1929年2月のただ1回(2日間)だけである。それに対して第39番と「ト短調」は、いずれも4回以上で「ト短調」が最も多く、しかも戦後取り上げた唯一のモーツァルトの交響曲ともなっている。
その演奏は速い速いといわれて来たが、モーツァルトの「ト短調交響曲」の代表的名盤として多くの人びとによって挙げられてきたのが、フルトヴェングラーとウィーン・フィルによる録音であるのは興味深いことである。打算を加えれば、オリジナル楽器派の演奏が主流になった今、その先見性が改めて評価されるべき時にもなろう。まるで地煙りをたてながら疾駆しているような激越な第1楽章。〈モルト・アレグロ〉の指示に従っている点で傾聴に値する。悲劇的情感を振り撒く瞬間瞬間の“音”である。恐らくモーツァルトが目指していたであろう孤独感、寂寥感を誰よりも速いテンポで再現した。それでいて品格を失うことがない。このテンポだからこそ可能だった表現であるし、フルトヴェングラーが指揮するウィーン・フィルの美音だからこそ音楽的な素晴らしさが保てたのだ。
よくこの演奏を「せかせかしている」と批判する方もいるが、「疾走する悲しみ」という観念的理解を持たせて余りある。50年代のウィーン・フィルならではの甘美なポルタメントも味わえるし、低弦の音もインパクトがあり、一度聴いたら忘れられない感触を残すワルターをはじめ、同時代の指揮者の「ト短調交響曲」とはフルトヴェングラーの解釈は一線を画す。フルトヴェングラーは、この曲からロマン主義的な懐古の情を排除した。あるのは刹那的な無常観である。
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